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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7084号 判決

大阪市住吉区苅田三丁目六番八号

原告

株式会社アロインス化粧品

右代表者代表取締役

橋本守正

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

久世勝之

岩坪哲

田辺保雄

大阪市阿倍野区昭和町二丁目一九番二四号

被告

株式会社アロエッセン化粧品

右代表者代表取締役

平本克彦

右訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

松田成治

右輔佐人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は別紙(一)記載の包装用容器(以下「イ号物件」という。)入りのアロエッセンスキンクリームA(以下「被告商品」という。)を販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告は前項記載の被告商品を廃棄せよ。

三  被告は原告に対し一億円及びこれに対する平成五年八月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  当事者の営業

1  原告は、原告代表者橋本守正(以下「橋本」という。)が昭和五六年九月から「アロインコスメチックス」の屋号により個人で経営してきた化粧品の製造販売事業を株式会社組織に改めるため(いわゆる法人成り)、昭和五九年六月二一日に設立した株式会社である(甲第一二号証、第五二号証、弁論の全趣旨)。

2  被告は、もと原告の営業部長であった平本克彦(以下「平本」という。)が昭和六二年二月頃原告を退職し、同年三月頃から個人で経営してきた化粧品の販売事業を株式会社組織に改めるため(法人成り)、昭和六三年五月二〇日に設立した株式会社である(乙第一三号証、被告代表者、弁論の全趣旨)。

二  原告商品の製造販売と包装用容器

原告は、昭和六一年頃から、アロエエキス配合のクリーム(商品名「アロインスオーデクリームS」。以下「原告商品」という。)を製造、販売しているところ(証人室田富夫、弁論の全趣旨)、その包装用容器の形態は別紙(二)記載のとおりである(検甲第一号証。但し、被告が構成(3)の「パール入りの緑色」につき「濃緑色」と主張する外は、当事者間に争いがない。以下「A号物件」という。)。なお、包装用容器としてA号物件を使用した原告商品の販売開始時期について、甲第五三号証には昭和五九年春である旨、乙第九号証の2には昭和五九年五月である旨各記載されているが、原告自体右販売開始時期は昭和六一年頃であると主張し、証人室田富夫、同林樹一もこれを前提とした証言をしていること、原告商品のチラシを最初に作成したのが昭和六〇年一〇月であり(甲第一三号証の2)、業界新聞に原告商品の宣伝広告を最初に掲載したのが昭和六一年一〇月二七日であること(甲第一九号証の1・2)、後記第四の二1(二)掲記の甲第三〇号証によれば、昭和六一年二月の原告商品のシェアは〇%とされていること、被告代表者の供述に照らし、原告がA号物件を使用した原告商品の製造販売を本格的に開始したといえるのは昭和六一年頃のことと認められる。

三  被告商品の製造販売と包装用容器

平本は、昭和六二年頃、イ号物件(検甲第二号証。但し、被告が構成(3)の「パール入りの緑色」につき「濃緑色」と主張する外は、当事者間に争いがない。)入りのアロエエキス配合の被告商品(商品名「アロエッセンスキンクリームA」)の販売を開始し、被告の設立後は被告が被告商品を販売し、販売のために展示している(被告代表者、弁論の全趣旨)。

四  請求

本件請求は、原告が、A号物件は、その形態の特徴(要部)が、〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものである点、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色である点、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けている点(以下、右〈1〉ないし〈3〉をまとめて「原告主張の容器形態」という。)にあり、原告の商品であることを示す表示として、平成二年初め頃には日本国内において需要者の間に広く認識されるに至っている(周知性を獲得)ところ、イ号物件は、原告主張の容器形態においてA号物件と同じであり、その使用は被告商品と原告商品との間に混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、被告に対し、不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一号、三条に基づき、被告商品の販売及び販売のための展示(侵害行為)の停止及び侵害行為組成物たる被告商品の廃棄を求めるとともに、同法四条に基づき、被告の不正競争行為により原告に生じた損害の賠償として一億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年八月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

五  争点

1  原告主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか。

2  イ号物件の形態はA号物件の形態と類似し、被告商品と原告商品との問に混同を生じるか。

3  被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか)について

【原告の主張】

原告主張の容器形態を特徴とするA号物件は、以下のとおり、平成二年初め頃までには原告の商品表示として需要者の間に広く認識されるに至っている。

1 原告は、資本金一〇〇〇万円、従業員三五人で、肩書住所地所在の本店の外に大阪支店、東北支店(仙台)及び高知支社(中村)を有している。取扱商品は三〇種類に及ぶが、そのうちA号物件入りの原告商品の占める割合は約六五%である。原告の年商は、昭和五九年六月から平成六年四月二〇日までの間平均約一二、三億円であり、株式会社花王その他の有名企業の間にあっても常に上位にランクされている(甲第三号証~第一一号証、第三〇号証~第三九号証、第五〇号証)。

2 原告は、昭和六一年から現在まで、原告商品を掲載したカタログ、チラシ、会社案内等を多数印刷配布し(甲第一二号証、第一三、第一四号証の各1・2、第一五号証、第一六号証~第一八号証の各1・2、第二八号証の1・2、第四七号証~第四九号証の各1・2)、テレホンカード(甲第四一号証の1・2)やカレンダー(甲第四六号証の1・2)を配布し、また、新聞、雑誌等に多数の宣伝広告を掲載し(甲第一九号証の1・2、第二一号証~第二六号証、第二九号証の1・2)、大阪国際空港国内線到着バゲージクレーム内に電照看板を掲出し(甲第二七号証、検甲第三号証、第四号証)、熊本市内に屋上広告塔を設置する(甲第二〇号証の1・2、第五一号証の1・2、検甲第五号証の1~3)などして、原告商品の宣伝広告に努めてきた。

3 原告は、札幌、浜松、大牟田に販売会社を設け、そこから原告商品を第一次問屋(二〇ないし三〇軒)や第二次問屋(一〇〇軒)に販売し、第一次問屋からは第二次問屋の外、スーパー、小売店に、第二次問屋からはスーパー、小売店に販売しており、全国約一〇万軒の化粧品小売店のうち約三万軒が原告商品を取り扱っている(甲第四二号証)。

4 以上の結果、原告商品は業界で五ないし一〇%のシェアを占め、業界トップの地位にある。

5 被告が、原告商品の販売開始前に濃緑色の円筒形で容器本体と蓋体の境目に金色のリングが施された包装用容器が使用されていたとして援用するイリヤ化学株式会社の「ベラクリーム」及びハネスキン化粧品本舗の「ハネスキン」の包装用容器についていえば、前者は、A号物件と容器の大きさが異なり(一一〇グラム入り)、色彩もパール入りの緑色ではなく、蓋体の下方部分もリングであるかどうかは明らかでなく、その色彩も金色というより薄い黄色というべきものであり、後者は、A号物件と色彩が異なり、金色のリングも入っていない。

A号物件は、原告主張の容器形態である〈1〉ないし〈3〉の点を一体のものとして具えているところに顕著な特徴があるのである。

【被告の主張】

1 A号物件を使用した原告商品の発売前に他社製のアロエエキス配合の化粧クリームが既に市販されており、その包装用容器は濃緑色の円筒形で、容器本体と蓋体の境目には金色のリングが施されていた。すなわち、雑誌「理容と経営」一九八二年一二月号(乙第七号証の1~3)によれば、イリヤ化学株式会社が昭和五七年一二月当時販売していたアロエエキス配合のクリーム「ベラクリーム」(一一〇グラム入り)が、雑誌「理容と経営」一九八四年一月号(乙第八号証の1~3)によれば、ハネスキン化粧品本舗が昭和五九年一月当時販売していたアロエエキス配合のクリーム「ハネスキン」(一八五グラム入り)がそれぞれ、円筒形の濃緑色の包装用容器に入れられ、容器本体と蓋体の境目には金色のリングが施されていた。その他、昭和五九年一月当時、パール化研やネアームが同種のアロエエキス配合のクリームを販売していた。

橋本は、昭和五六年九月からアロエエキス配合の薬用クリーム「オーデクリーム」を販売していたが、この包装用容器の色彩は白色に近い緑色であった。ところが、原告は、昭和五九年六月頃、右包装用容器を現在の濃緑色の包装用容器すなわちA号物件に変更し、「オーデクリームS」として新発売したものである。

このように、原告は、アロエエキス配合のクリームを原告に先行して販売していたイリヤ化学株式会社やハネスキン化粧品本舗等が、既に円筒形の濃緑色で蓋体と容器本体の境目に金色のリングを施した(原告主張の容器形態を具備した)包装用容器を使用していることを、同業者として十分知りながら、あえて新製品(原告商品)の包装用容器として、これらの包装用容器と酷似したものを採択しこれを模倣したのである。

2 原告は、イリヤ化学株式会社の「ベラクリーム」やハネスキン化粧品本舗の「ハネスキン」の包装用容器の色彩はA号物件の色彩(パール入りの緑色)と異なる旨主張するが、これらの色彩は、いずれも濃緑系の色彩であり、微差があるにすぎず、実質的には同じである。したがって、原告商品における原告主張の容器形態(ないしはA号物件の構成(1)~(5))は、先行メーカーの商品の包装用容器の特徴と共通しており、それらの包装用容器と一見して識別可能な顕著な特徴とはいえない。

3 他方、A号物件の構成中、蓋体の上面のアロエの花図柄模様の構成(8)は、先行の包装用容器には見られない特有の構成である(原告の取締役である猿谷秀次証人もこのことを認めている。)。

取引の実際においても、アロエエキス配合の化粧クリームは安価な商品であり、陳列棚の下段の方や足元のバスケットの中に一括して展示、販売されることが多い(検甲第六、第七号証の各1~3、乙第一〇、第一一号証の各1・2、第一二号証の1~3)ため、包装用容器の蓋体の方がよく目につくので、アロエエキス配合の化粧クリームの市場に参入している多数のメーカーは蓋体の上面に特有のマークを入れるのが普通であり、原告もA号物件の蓋体の上面に顧客の目につくようにアロエの花図柄模様を大きく浮き彫りして表わしているのである。被告も含めこれら他社製のアロエエキス配合の薬用クリームの包装用容器において、A号物件の花図柄模様のような模様を入れたものはなく、A号物件のこの花図柄模様はぎざぎざマークと呼ばれて消費者に親しまれている。

以上のように、この蓋体上面のアロエの花図柄模様こそ、A号物件の特徴であり、他社の商品と識別し得る出所表示として機能する部分である。

二  争点2(イ号物件の形態はA号物件の形態と類似し、被告商品と原告商品との間に混同を生じるか)について

【原告の主張】

1 被告商品の包装用容器であるイ号物件の形態は、A号物件における原告主張の容器形態と同じ特徴を具えているから、A号物件と類似し、離隔的に観察した場合、一般消費者が被告商品と原告商品とを混同することは明らかである。

2 のみならず、一般に小売店においては、原告商品と被告商品を同じ場所で一緒に陳列販売する方法(検甲第六、第七号証の各1~3、乙第一〇、第一一号証の各1・2、第一二号証の1~3)が採用されているため、なおさら両商品の混同を生じ易いのである。

3 特に、A号物件には金色で「ALOINS」と表示され、イ号物件には同じく金色で「Aloessen」と表示されており、両者の表示は、「アロ(ALO、Alo)」の部分において外観、称呼及び観念が共通するから、一般消費者は、容器の外観の特徴と商標の前半部分を見て、原告商品と被告商品を混同することは明らかである。

【被告の主張】

1 前記一【被告の主張】3記載のとおりA号物件は蓋体上面のアロエの花図柄模様に特徴があるのに対し、イ号物件の蓋体上面にはそのようなアロエの花図柄模様がなく、これとは全く異なった「A」の欧文字の図柄が表示されている。

また、A号物件に表示された商標「ALOINS」とイ号物件に表示された商標「Aloessen」とは非類似である。

しかも、原告商品は、化粧品市場において被告商品を含めた他社製のアロエエキス配合のクリームよりも高い価格で販売されており、安価な他社製品を知った顧客から原告商品は高いとの苦情が寄せられている。末端の消費者ですら、各社のアロエエキス配合のクリームを十分識別した上で、原告商品の価格を問題としているのである。

このように、A号物件とイ号物件とは、蓋体上面の図柄模様が相違し、容器本体に表示された商標も相違しているだけでなく、原告商品と被告商品は、市場でも十分識別されているから、被告がイ号物件を使用して被告商品を販売しても、原告商品との間に出所の混同を生じるおそれは全くない。

2 原告は、A号物件に表示された商標「ALOINS」とイ号物件に表示された商標「Aloessen」は「アロ(ALO、Alo)」の部分において外観、称呼、観念が共通する旨主張する。

しかしながら、両商標は、いずれも格別の語義や観念を生じない造語であって、外観上も相紛れるおそれがなく、また両商標から自然に生じる「アロインス」又は「アロエッセン」の称呼においても後半の「インス」又は「エッセン」という全く異なった音により相紛れるおそれがないから、類似しないことが明らかである。

なお、被告は、別紙被告商標目録記載の登録番号第二二〇七八二三号商標権を有しており(乙第一四号証、第一五号証)、これをイ号物件において正当に使用しているにすぎない。

三  争点3(被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額)について

【原告の主張】

1 被告代表者平本は、もと原告の営業部長の職にあったものであり、原告を退職すると同時にイ号物件を使用した被告商品の販売を開始したものであり、本件不正競争行為について被告に過失があることは明らかである。

2 原告は、被告の本件不正競争行為により以下のとおり一億円の損害を被った。

すなわち、原告は、A号物件を使用した原告商品を次のとおり合計九一五万個製造販売した。

(1) 昭和六一年度 一二八万個

(2) 昭和六二年度 一五五万個

(3) 昭和六三年度 一五〇万個

(4) 平成元年度 一一八万個

(5) 平成二年度 一一二万個

(6) 平成三年度 一一七万個

(7) 平成四年度 一三五万個

ところが、被告が被告商品の販売を開始した昭和六二年頃から原告商品の売上は減少しつつある。一方、被告は、平成二年七月から平成五年六月までの間に被告商品を合計三億六〇〇〇万円売り上げ、一億円の純利益を得た。したがって、原告は同額の損害を被ったものと推定される(不正競争防止法五条一項)。

第四  争点1(原告主張の容器形態を特徴とするA号物件は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか)についての判断

一  原告は、A号物件は、その形態の特徴(要部)が、原告主張の容器形態、すなわち〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものである点、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色である点、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けている点にあり、原告の商品であることを示す表示として、平成二年初め頃には日本国内において需要者の間に広く認識されるに至っている(周知性を獲得)旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

二  右認定判断の理由は、以下のとおりである。

1  証拠(各項に掲記)によれば、次の(一)ないし(三)の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五九年六月二一日に設立されて以来、宮城県仙台市と高知県中村市に支店を設けるとともに、専ら原告の商品を取扱う販売会社を大阪、札幌、浜松、福知山、大牟田に設け、右販売会社から全国の第一次問屋(二〇ないし三〇軒)や第二次問屋(一〇〇軒)を通じて原告の商品を全国各地のスーパーマーケットや化粧品店等の小売店に販売している(甲第四二号証、第五二号証)。原告の商品は三〇種類に及び、売上高は毎年一二億円程度であるが、その売上高の約六五%は原告商品によるものである(甲第四四号証、証人猿谷秀次)。

(二) 全国でドラッグストアのボランタリーチェーンを展開中のファルマ・グループに加盟する薬局・薬店(昭和六二年二月で八一一店、平成四年一〇月で一一七六店)による原告商品の月間販売数量(発注数量)、基礎化粧品の総販売数量に占める原告商品のシェア及びシェア順位の変遷状況は次表記載のとおりであり、また、右薬局・薬店による平成元年の原告商品の年間販売数量は約二万二九〇〇個、前同様の原告商品のシェアは約五・二%、シェア順位は三位であり、同じく平成四年の原告商品の年間販売数量は約二万〇四〇〇個、前同様の原告商品のシェアは約四・三%、シェア順位は三位である(甲第三〇号証~第三九号証・雑誌「国際商業」)。

月間販売数量(約個) 市場シェア(約%) シェア順位

昭和六二年二月 一〇〇〇 四・一 五位

一〇月 一六〇〇 八・一 一位

昭和六三年三月 一六〇〇 八・〇 一位

五月 八〇〇 一・三 二〇位

八月 四〇〇 一・七 一一位

一〇月 三三〇〇 一〇・〇 一位

平成元年三月 二〇〇〇 五・一 三位

八月 四〇〇 一・一 一八位

平成二年一〇月 三七〇〇 一〇・三 一位

平成三年五月 一〇〇〇 二・七 六位

一〇月 二四〇〇 五・九 二位

平成四年五月 一二〇〇 二・八 五位

一〇月 三一〇〇 七・三 二位

(三) 原告は、昭和六一年頃から現在まで、原告商品の写真を掲載した会社案内やチラシ、パンフレット等(甲第一二号証、第一三、第一四号証の各1・2、第一五号証、第一六号証~第一八号証の各1・2、第二八号証の1・2、第四七号証~第四九号証の各1・2)、「アロインス」の名称を付したオリジナルテレホンカード(甲第四一号証の1・2)、原告商品の写真を掲載したカレンダー(甲第四六号証の1・2)を大量に配布し、また、業界新聞や女性週刊誌等に原告商品の写真入りの宣伝広告を多数回にわたって掲載し(甲第一九号証の1・2、第二一号証~第二六号証、第二九号証の1・2)、あるいは昭和六二年三月二〇日から平成四年四月三〇日までの間大阪国際空港国内線到着バゲージクレーム内に原告商品の写真を掲げた電照看板を掲出したり(甲第二七号証、検甲第三号証、第四号証)、昭和六一年一一月から熊本市内のビルの屋上にA号物件の大きな模型を掲げた広告塔(甲第二〇号証の1・2、第五一号証の1・2、検甲第五号証の1~3)を設置するなどして、A号物件を使用した原告商品の宣伝広告に努めてきた(甲第四四号証、証人猿谷秀次)。

右認定の事実によれば、原告商品は、これまで長年にわたり継続的に基礎化粧品市場で大量に製造販売されてきた実績があり、広範な宣伝広告活動が展開されてきた商品であるということができる。

2  しかしながら、商品の包装用容器の形態が商品表示として周知性を獲得するためには、右形態が他の類似包装用容器と比べ需要者の感覚に端的に訴える独自の特徴を有し、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解し得る程度の識別力を備えていること及び当該包装用容器の形態が特定の営業主体の商品に排他的に使用されて、その排他的使用が長期間にわたるか又は短期間でも強力に宣伝広告されたものであることが必要である。

これを本件についてみるに、証拠(甲第一二号証、第一七、第一八号証の各1、第二二号証~第二五号証、第四六号証の1、第五二号証、乙第一号証、第七、第八号証の各1~3、第九号証~第一一号証の各1・2、第一二号証の1~3、第一三号証、検甲第六、第七号証の各1~3、第八号証、第九号証の1・2、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし(六)の事実が認められる。

(一) 橋本は、昭和五六年九月に個人営業で「アロインコスメチックス」を創業し、その頃アロエエキス配合のクリーム(商品名「オーデクリーム」)の製造販売を開始した。右「オーデクリーム」の包装用容器は、原告商品の包装用容器であるA号物件の構成(1)、(2)、(4)、(6)と同じ構成を具えているが(但し、構成(6)について、アロエと覚しき花の図柄模様は濃緑色である。)、容器本体及び蓋体の外面は全体が明るい(薄い)黄緑色であり、濃緑色をもって、容器本体の蓋体との境目付近(雄ネジ部のすぐ下)の全周に太幅の帯条とその直下のごく細幅の帯条を、容器本体の下端近くの全周に太幅の帯条をそれぞれ巡らし、また、容器本体の正面には、同じ濃緑色をもって、中央上寄り(アロエと覚しき花の図柄模様の上)に大きく「ALOINS EAUDE CREAM」の文字を、中央下部(右図柄模様の下)に小さく「アロエエキス配合」の文字を表示したものである。

(二) 右オーデクリームと同種のアロエエキス配合のクリームは、遅くとも昭和五〇年頃から化粧品市場において原告以外の化粧品業者(例えば東京アロエ)によって販売されており、現在では、その市場は既に成熟段階に入って十数社が競合しているが、そのほとんどが、色相や明度及び彩度等の細部の違いはあれ、アロエのグリーンをイメージしたとみられる緑色に彩色した包装用容器を使用している(例えば、シボレー株式会社製造の「アロゾーム スキンクリーム(中性タイプ)」〔検甲第八号証〕の包装用容器〔但し、検甲第八号証は容器本体と蓋体が共に緑色であるが、その後容器本体を白色、蓋体を緑色に彩色した検甲第九号証の1の包装用容器に変更されている。〕、「アロエファミリークリーム」の包装用容器及び「メンターム アローバ アロエクリーム」の包装用容器〔乙第一二号証の1〕)。

(三) イリヤ化学株式会社は、昭和五七年一二月当時、アロエエキス配合のクリーム(商品名「ベラクリーム」)を販売していたが、右「ベラクリーム」の包装用容器は、一一〇グラム入りで、A号物件の構成(1)、(2)、(4)と同じ構成を具えており、容器本体及び蓋体の外面は全体が濃緑色であり、蓋体の下端付近の全周に金色の帯条を、容器本体の中央部全周に金色の二条の帯条をそれぞれ巡らし、また、容器本体の正面には、同じ金色をもって、右二条の帯条の一部を切り欠いて「Vera Cream」の大きな文字とアロエと覚しき花の図柄模様を表示したものである。

また、ハネスキン化粧品本舗(発売元は株式会社後藤商店)は、昭和五九年一月当時、アロエエキス配合のクリーム(商品名「ハネスキンクリーム」)を販売していたが、右「ハネスキンクリーム」の包装用容器は、一八五グラム入りで、A号物件の構成(1)、(2)、(4)と同じ構成を具えており、容器本体及び蓋体の外面は全体が濃緑色であり、容器本体の蓋体との境目付近(雄ネジ部のすぐ下)の全周に金色の波形状の帯条を、容器本体の下端近くの全周に縦線による波形状の帯条をそれぞれ巡らし、また、容器本体の正面には、同じ金色をもって、上から順に「HONEYSKIN CREAM」の文字、楕円形の枠の中に描いたアロエと覚しき花の図柄模様、「ALOE EXTRACT」の文字を表示したものである。

さらに、昭和五四年五月には既に、化粧クリームの包装用容器として、容器本体の雄ネジ部の下端全周又は蓋体の下端全周に細幅の金色のリング部を設けたものも用いられていた。

昭和五九年一月当時、これらの商品以外にも、パール化研やネアームなどの化粧品業者が原告のオーデクリームと同種のアロエエキス配合のクリームを販売していた。

(四) 以上の状況下で、原告は、昭和六一年頃から、包装用容器としてA号物件を使用した原告商品(「アロインスオーデクリームS」)を製造販売している。

(五) 原告は、地域によってS型(A号物件)とT型の二つのタイプの包装用容器を使用して原告商品を販売しており、このうちT型包装用容器(例えば、甲第一七、第一八号証の各1、第二二号証~第二五号証に写真が掲載されている。)は、蓋体の上面中央に小さなアロエと覚しき花の図柄模様を金色で浮き彫りした上、その周囲を取り囲むように大きなアロエと覚しき花の図柄模様を円形に三つ連ねて浮き彫りし、さらに容器本体の周壁部分にも大きなアロエと覚しき花の図柄模様を数個連ねて浮き彫りしている点がS型包装用容器(A号物件)の構成と顕著に相違している。原告商品は、需要者からそのT型包装用容器における右各浮き彫り模様及びS型包装用容器(A号物件)における蓋体の上面中央の花の浮き彫り模様(構成(8))に着目して「ぎざぎざ模様の化粧品」と呼ばれることもある。

また、原告の会社案内(甲第一二号証一五頁)には、容器本体及び蓋体の緑色を非常に薄い緑色に変更した以外は右T型包装用容器と同形の包装用容器を使用した「オーデクリーム」の写真が掲載されている。

(六) 原告商品の一個当たりのメーカー希望小売価格は一八〇〇円であり、概して被告商品より高く売られているが、両者とも半額に近い価格で販売されることもある。このように、両商品とも化粧品としてはその価格が比較的低廉であり、日常的に比較的多量消費される商品であることもあって、いわゆる化粧品売場よりもむしろ日用雑貨等と並べて展示販売されることも多い。

以上の認定事実によれば、原告が原告商品の包装用容器であるA号物件の特徴として挙げる、〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものであり、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色であり、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けているという原告主張の容器形態は、原告商品の製造販売開始時点において既に化粧品業界において使用されていた先例があり、これをそのまま踏襲したありふれた形態であって、それ以上に独自の特徴を有しておらず、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解し得る程度の強い識別力を具備したものであったとは認められない。原告は、イリヤ化学株式会社の「ベラクリーム」及びハネスキン化粧品本舗の「ハネスキンクリーム」の包装用容器は、A号物件と色彩が異なると主張するが、いずれも濃緑色といってよい色であり、際だった差異があるとは認められない。また、「ベラクリーム」の蓋体の下端付近の金色の帯条及び「ハネスキンクリーム」の容器本体の蓋体との境目付近の金色の帯条は、リングによるものではないが、展示販売されている場合の閉蓋状態においてA号物件のリング部と同様の印象を需要者に与えるものと認められ、昭和五四年五月には既に化粧クリームの包装用容器として容器本体の雄ネジ部の下端全周又は蓋体の下端全周に細幅の金色のリング部を設けたものも用いられていたことを併せ考えると、A号物件のリング部をもって独自の特徴ということはできない。原告は、A号物件は原告主張の容器形態である〈1〉ないし〈3〉の点を一体のものとして具えているところに顕著な特徴があるのであると主張するが、右「ハネスキンクリーム」は、A号物件と〈1〉の点については同一であり、〈2〉及び〈3〉の点については際だった差異はなく同様の印象を与えるものであるから、右主張は採用の限りではない。そして、A号物件を全体として観察すれば、その構成(8)の、蓋体の上面中央に、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている点が、他の化粧クリームの包装用容器には見られない斬新な独自の形態であると認められる。

3  前示のとおり原告商品の発売後原告は原告商品について広範な宣伝広告活動を展開したことが認められるが、原告が、原告商品の包装用容器であるA号物件の形態について需要者にアピールしその周知を図るべく、意識的に原告主張の容器形態のみを取り出して、その点に的を絞って需要者に訴える強力で効果的な宣伝広告活動を展開した形跡は、本件全証拠によるも窺うことができない。かえって、アロエエキス配合のクリームは、原告商品の製造販売開始時期よりも相当以前から原告以外の化粧品業者によって販売されており、しかも現在では、競合する十数社のほとんどがアロエのグリーンをイメージしたとみられる緑色に彩色した包装用容器を使用しているのである。また、原告は、地域によってS型包装用容器(A号物件)だけでなく、外面の浮き彫り模様の点で顕著に相違するT型包装用容器をも使用して原告商品を販売しており、原告が統一したコンセプトのもとに原告商品の包装用容器としてA号物件を使用しているものとは考え難い。

高級感をアピールするような類の化粧品とは異なり、原告商品や被告商品のように比較的低廉で実用的な基礎化粧品の需要者は、その包装用容器の見た目の形状や色彩にさほど強い興味や関心を抱くとは考えられず、肌の手入れなど美容への強い関心に基づく豊富な商品知識により、メーカー名、商品自体の効能や安全性及び商品価格に着目し、それらの点について自ら他の商品と比較検討してこれを選択し購買するであろうと推認するに難くなく、原告商品の包装用容器であるA号物件において需要者の注意を強く惹く部分があるとすれば、前示のとおり他の包装用容器には見られない斬新な独自の形態である蓋体の上面中央に浮き彫りされたアロエと覚しき花の図柄模様であるといわざるを得ない。また、この種商品は、小売店舗の店頭において、通常、各メーカーの同種商品が一か所のコーナーにまとめて陳列販売されているが(検甲第六、第七号証の各1~3、乙第一〇、第一一号証の各1・2、第一二号証の1~3)、需要者は、各商品のメーカー名や商品名等の掲示(検甲第七号証の2・3、乙第一〇号証の1、第一二号証の1~3)によって、そのような掲示がなくとも各商品に表示されたメーカー名ないし商標(検甲第一号証、第二号証)によって、各商品が別異のメーカーの商品であることを認識することができるものと認められる。

してみると、この種商品の需要者は、A号物件及びイ号物件を見ても、類似した外観形状や色彩の包装用容器を使用したアロエエキス配合のクリームが多数の業者を出所として販売されていると認識するにすぎず、A号物件における原告主張の容器形態に注目して特定の販売業者の商品であると判断して商品を選択し購買しているものとは認められない。

4  結論

以上を要するに、原告商品のこれまでの販売実績、宣伝広告等の前記認定の諸事情を総合考慮してもなお、原告主張の平成二年初め頃の時点はもちろん現時点においても、原告商品の包装用容器であるA号物件が原告主張の容器形態の故をもって原告の商品を示す表示として周知性を獲得していると認めるのは困難であるといわざるを得ない。

なお、A号物件が仮に原告の商品であることを示す表示として周知性を獲得しているとすれば、前示のとおり他の化粧クリームの包装用容器には見られない斬新な独自の形態であるところの、蓋体の上面中央に浮き彫りされたアロエと覚しき花図柄模様の故であると認められるところ、被告商品の包装用容器であるイ号物件にはそのような花の図柄模様はなく、代わりに「A」の欧文字図柄(別紙(一)記載のイ号物件の構成(7))があるだけであるから、需要者において被告商品と原告商品とを混同するものとは認められない。

原告は、A号物件には金色で「ALOINS」と表示され、イ号物件には同じく金色で「Aloessen」と表示されており、両者の表示は「アロ(ALO、Alo)」の部分において外観、称呼及び観念が共通すると主張して、この点をも一般消費者が被告商品と原告商品を混同する理由として挙げる。しかし、イ号物件の「Aloessen」の表示は、被告が商標権を有する別紙被告商標目録記載の登録商標(乙第一四号証、第一五号証)の使用と認められるところ、A号物件における「ALOINS」の商標もイ号物件における「Aloessen」の商標も、それぞれ同じ書体、同じ大きさの欧文字で一連に横書きしたものであって、いずれも一体のものとして認識されることは明らかであるから、両商標の要部は「ALOINS」又は「Aloessen」全体にあるといわざるを得ず、その各一部を取り出して対比するのは相当でなく、両商標は全体として対比されるべきである。そうすると、両商標は、外観、称呼、観念のいずれにおいても相違し(観念については、両商標とも何らかの観念が生じると認めるに足りる証拠がないから、そもそも対比のしようがない。)、全体として類似しないことが明らかであるから、一般消費者が商標を理由に被告商品と原告商品を混同することもあり得ない。

第五  結語

以上によれば、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことになるから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

別紙(一)

イ号物件説明書

イ号物件は次のとおりの構成から成る包装用容器である。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一である。

(2) 容器全体の閉蓋状態での縦横比は約四対五であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三である。

(3) 容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色である。

(4) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい円筒状の雄ネジ部を連設している。

(5) 雄ネジ部の下端全周には、細幅の金色のリング部を設けている。

(6) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けている。

(7) 蓋体の上面中央には、「A」の欧文字図柄(この「A」の文字の構成中、左右の傾斜ステムをその中央付近で横に結ぶアームは、右の傾斜ステムの下端から左の傾斜ステムの中央に向けて僅かに先細りしつつ伸び、左の傾斜ステムから僅かに突出して配している。)をやや大きく浮き彫りして、金色に着色している。

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

A号物件説明書

A号物件は次のとおりの構成から成る包装用容器である。

(1) 有底円筒状の容器本体と、有底円筒状の蓋体から成る包装用容器であり、閉蓋状態で容器本体の周壁外面と蓋体の周壁外面は面一である。

(2) 容器全体の閉蓋状態での縦横比は約一対一であり、蓋体と容器本体の高さ比は約一対三・五である。

(3) 容器本体及び蓋体の外面はパール入りの緑色である。

(4) 容器本体の上端には、外径が僅かに小さい雄ネジ部を連設している。

(5) 雄ネジ部の下端全周には、細幅の金色のリング部を設けている。

(6) 容器本体の正面には、中央下寄りに、斜め上方に四方に延びる五葉の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる花から成るアロエと覚しき花の図柄模様を白色で大きく描いている。

(7) 容器本体の底面には、容器外周と同心の浅い円形凹部を中央に大きく設けている。

(8) 蓋体の上面中央には、斜め上方に四方に延びる多数の葉とその中央から上方に僅かに屈曲して延びる茎及びその上端の花から成るアロエと覚しき花図柄二つを、一方を倒置して近接して描いた図柄模様を大きく浮き彫りしている。

〈省略〉

〈省略〉

被告商標目録

商標出願公告 平1-43847

公告 平1(1989)7月4日

商願 昭62-115532

出願 昭62(1987)10月14日

連合商願 昭62-44095

出願人 エステートケミカル株式会社

三重県上野市愛宕町1821番地の8

代理人 弁理士 伊丹健次

審査官 岩崎和夫

指定商品 4 せつけん類(薬剤に属するものを 除く。)その他本類に属する商品

〈省略〉

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